教育長ブログ

熊本市教育長(H29.4~) facebookの投稿から主なものを転載しています。 https://www.facebook.com/hiromichi.endo

次期学習指導要領に向けた課題:学校に来る子だけ相手にすればよいのか?

日本教育新聞に寄稿した記事を、許可を頂いて転載します。

次期学習指導要領に向けた議論が始まっているが、これまでの学習指導要領にも、現在の学習指導要領を巡る議論にも、根本的に欠けている視点がある。それは「学校に来る子どもだけ相手にすればよいのか?」ということだ。

令和3年度の調査では、小・中学生の長期欠席者は約41万人であり、小学生の2・9%、中学生の7・1%を占めている。近年の増加傾向が続けば、数年内に中学生の10%を超えてもおかしくない。ただし、これは年間の欠席が30日以上の人数なので、1日も学校に来ていない人数はもっと少ない(文科省は長期欠席の一部である「不登校」の欠席日数しか公表していないため、長期欠席者全体の欠席日数は不明である)。しかし、最近増加している非一条校フリースクール、インターナショナルスクールなど)に通う場合など、年間を通じて登校しない人数も増えていると考えられる。

学習指導要領は、「小学校」の教育課程の基準(学校教育法施行規則第52条。中学校等も同様)なので、非一条校やホームスクーリングのような学校外教育には適用されない。「学校に来る子ども」だけを対象に議論を尽くして学習指導要領をつくっても、学校に来ない子どもにとっては関係ない、そして、学校に来ない子どもが増えている、という現状には、大きな落とし穴があるのだ。

現在の日本の制度では、学校に行かない子どもの学習内容は何も決まっていない。いうなれば無法地帯である。仮に「インターナショナルスクールに通ったので、日本の憲法は知らない」とか「フリースクールで、人種や性別には優劣があると教えられた」という人がいても、それを防ぎようがない。

このまま学校教育の枠外で教育を受ける子ども(あるいは、まったく教育を受けない子ども)が増え続け、その学習内容が顧みられない状況が続けば、日本の将来にも影響しかねない。学校に行く・行かないにかかわらず、基本的な生活能力(言語、衣食住など)、憲法上の価値(基本的人権、民主主義、平和主義など)、それらを担保する制度(社会保障、裁判、選挙など)について学ぶ機会を保障しなければ、社会の安定や発展すら危ぶまれる。

だからといって、就学義務を徹底し罰則を強化しても、混乱を招くだけだろう。学校を「出席扱い」にする条件として一定の基準をつくることはできるが、そもそも「出席扱い」を求めない人にとっては無意味である。学校を魅力化することで欠席者を減らすのが王道だが、技術の進歩に伴って学習の場や方法が多様化すること自体は避けられない。

そうであれば、「学校に来る子どもだけを相手にする」のではなく、「学校に来ない子ども」を制度的に認めた上で、その子どもたちにも適用される何らかの基準をつくる必要がある。例えば、学校で義務教育を受けない場合には、保護者が教育計画などを提出して承認を受ける、といった諸外国に見られる制度も検討に値するのではないか。

日本教育新聞 2023年8月28日付「提言」掲載)