教育長ブログ

熊本市教育長(H29.4~) facebookの投稿から主なものを転載しています。 https://www.facebook.com/hiromichi.endo

増加する非一条校 ― 就学義務をどう考えるか:「子どもの最善の利益」実現へ方策検討を

日本教育新聞に寄稿した記事を、許可を頂いて転載します。

 先日、あるインターナショナルスクールを訪問させていただいた。大自然の中にあるそのスクールは、学校教育法上の学校(一条校)ではないため、そこに通っても日本の義務教育を受けたことにはならない。従って、制度上、生徒は村内の公立学校に籍を置き、その公立学校を卒業するという扱いになる。

 少子化に悩む村にとって、インターナショナルスクールに全国・世界から人が集まれば、地域の活性化につながる。さらには、公立学校の在籍者が増え、学校の維持・拡充という効果も期待できるため、共存共栄の関係になっているようだ。公立学校とインターナショナルスクールの連携も検討されているようである。

 最近では全国的に、インターナショナルスクール、フリースクールオルタナティブスクールといった、一条校ではない教育機関の開設が相次いでいる。これら教育機関の運営形態は、各種学校の資格を持つものから、完全に個人運営のものまで、さまざまである。また、先ほどの例のように地元自治体・公立学校との連携がうまくいっている場合もあれば、そうでない場合もある。

 最近の報道によれば、自治体が積極的に補助金を出して、海外の名門校を誘致するケースもあるようだ。一方で、地元の自治体・学校との接触がほとんどないフリースクールも存在している。

 その結果、指導要録上の「出席扱い」となるかどうかなど、通学する児童・生徒の置かれる立場もバラバラである。こうした状況を全国的に把握できるような調査も行われていない。今後もこうしたスクールの開校が増えていくことが予想されるが、制度が追い付いていないというのが実感である。

 こうした実態を前にして、就学義務があるのだから、全員を一条校に登校させるべきだ、などと建前論を言っても仕方がない。それで全員が幸せならいいが、そうでないから問題なのだ。登校することのみが目的ではなく、社会的な自立を目指す必要があるということは、文科省も明示している。現状を放置すれば、情報とお金を持っている家庭は好きな教育機関が選べ、そうでない家庭は選べない、という状況をさらに悪化させるだけである。

 今年は学制150年である。「邑(むら)に不学の戸なく家に不学の人なからしめん事を期す」という理念の実現を支えてきたのが、就学義務という制度である。そして、その内容は時代によって少しずつ変化してきた。急増する一条校ではない教育機関を、日本の教育制度の中でどう位置付けるか、現実を直視した議論が必要な時期である。その際には、憲法89条(公の支配に属しない教育事業への公金支出等の禁止)の制約をどう考えるかという問題も、避けては通れないだろう。

 どんな制度も完璧ではあり得ない。より良いものにするため、常に改善を続けていく必要がある。これからの時代にふさわしい、一人一人に合った教育を受けられる制度をどう創るか。世界的な動向も視野に入れながら「子どもの最善の利益」を実現するための方策の検討が必要である。

日本教育新聞 2022年9月19日付「提言」掲載)