教育長ブログ

熊本市教育長(H29.4~) facebookの投稿から主なものを転載しています。 https://www.facebook.com/hiromichi.endo

始まる中学校の教科書採択:当事者である子どもの意見 反映しよう

日本教育新聞に寄稿した記事を、許可を頂いて掲載します。
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今年は、4年に1度の新しい中学校教科書の採択年である。各地の教育委員会では、夏の採択に向けて準備が始まっている。
ご承知の通り、教科書の採択は、公正が確保されるよう厳密な手続きにのっとって行われる。文科省も、そのための通知を毎回発出している。
一方で、昨年4月に施行されたこども基本法では、教育施策を含む幅広い「こども施策」について、子どもが「自己に直接関係する全ての事項に関して意見を表明する機会」が確保されることや、子どもや関係者の「意見を反映させるために必要な措置」を講ずることを求めている(第3条第3号、第11条)。
教科書を使う当事者は、教員と子どもである。毎日のように接する教科書は、子どもにとって最も身近で、最も重要な教材だといえる。教科書の良しあしは、子どもの興味関心や学力に影響を与え、その子の将来をも左右する可能性がある。
従って教科書採択は、子どもに直接関係する「こども施策」の中でも、特に重要なものの一つだといってよい。
しかし、これまでの教科書採択では、当事者としての子どもの意見を聴くという視点は希薄であった。こども基本法が施行された今、教科書採択に当たっては、同法に基づいて、子どもの意見を聴き、反映するための措置が必要だと考える。
現在の教科書採択のプロセスでも、採択に携わる教員や保護者によって、子どもの実態が考慮されてはいる。
例えば、各教育委員会で教科書採択の調査研究を行う教員は、各地の子どもの現状や、教科書に対する子どもの反応なども勘案しながら、採択の資料を作成している。
また、採択に関わる教科書選定委員会や教育委員会の委員には、保護者も加わっている。
さらには、採択に先立って行われる各地の教科書展示会では、教員や保護者をはじめ、広く一般からの意見を募っている。
しかしながら、子どもに対し、当事者としての意見を聴くという手続きは、現行制度には存在していない。
もちろん、子どもの発達段階によって、どれだけ意見が言えるのかは異なるだろう。こども基本法も「年齢及び発達の程度に応じて」子どもの意見が尊重されるとしている(第3条第4号)。
例えば、小学校1年生にとっては、教科書自体が初めて触れるものであり、意見を聴かれても難しいかもしれない。
しかし、中学生や高校生であれば、どの参考書を使いたいか、どの問題集がいいかというのは、自分で十分に選べるわけで、教科書についても自分の意見を言うことはできるはずである。
実際にどのような手続きで意見を反映させるのかは難題であり、私自身もこれぞという答えを持ち合わせていない。教科書の検定から採択までのスケジュールにもう少し余裕があれば、各校を巡回して子ども向けの教科書展示会を行う、といったことも一案かもしれない。
今回の教科書採択はもう始まっているが、現行制度内でも、教科書展示会に児童・生徒の参加を促すといったことは可能だろう。
今後、文科省教育委員会が協力して、教科書採択に子どもの意見を反映させる具体的な方法を検討し、次回の採択で制度化することを提言したい。
日本教育新聞 2024年5月27日付「提言」掲載)