教育長ブログ

熊本市教育長(H29.4~) facebookの投稿から主なものを転載しています。 https://www.facebook.com/hiromichi.endo

教育長だより ー まちづくりの中での教育の位置づけ

※月刊「日本教育」に寄稿した記事を、許可を得てブログに転載させて頂きます。

熊本は今、TSMC(台湾積体電路製造)という巨大半導体企業の工場誘致に湧いている。今年8月末時点での時価総額が世界第10位と、日本最大の某自動車メーカーをはるかに凌ぐ巨大企業である。「国策」として多額の補助金を支出することに賛否はあるが、2024年の工場稼働に向けて準備が進んでおり、多くの関連企業の進出も見込まれている。

今後、従業員と家族、関連産業の従事者など、台湾からもかなりの人が熊本にやって来ることになる。それに伴って、こうした人達がどこに住むのか、子ども達の教育をどうするか、ということが大きな課題となっている。

これまでの関係者との意見交換などで伝わってきたシンプルで強力なニーズは「いい学校のある所に住む」ということだ。インターナショナルスクールを望む人もいれば、日本の学校を望む人もいるが、いずれにせよ、住環境の中でも教育環境が重視されていることは間違いない。

そうなると、教育委員会としては、単に学校のことだけを考えていればよいわけではなくなる。経済、住宅、交通、国際などの部局と一緒になって、あるいは他の自治体とも協力して、まちづくり全体を構想する中で学校の位置づけを考えなければならないし、時にはそうした連携を主導する必要も出てくる。また、公立学校だけでなく、国立・私立学校やインターナショナルスクールなども含めた、地域全体の教育環境を考えなければならない。

しかし、考えてみれば、これは外国人の受け入れに限った話ではない。そもそも教育行政全般にわたって、日頃からこうした発想で仕事をしていくべきことではないか。自治体のまちづくりの中で、学校や教育の果たす役割を考え、どの部局とどう連携していくのがよいのか、どの関係者にどう動いてもらうのがよいのか、それらをどうやったら実現できるのか。こうしたことを日頃から考え、主体的に行動する教育委員会であることが求められるはずだ。

今回、多数の外国人を受け入れるという喫緊のニーズができたことをきっかけに、本来こうした発想を持っておく必要があることを、恥ずかしながら再認識させられた。日頃の業務ではどうしても、学校をどうするか、教育をどうするかという発想だけに閉じてしまいがちである。しかし、教育委員会自治体の一部局として、自治体全体の方向性を決める一員だという自覚を常に持っていなければならない。「社会に開かれた教育課程」と言いながら、教育委員会自体が社会から閉じてしまっては、説得力もなくなってしまうだろう。

折しも、国ではこども家庭庁の設置が決定し、文部科学省は教育のことだけを考えればよいわけではなくなっている。子ども政策全体の中で、学校や教育の位置づけを考える体制になったのだ。今後は自治体においても、まちづくり全体の中に学校や教育を位置づけ、自治体の魅力向上を図るという発想が、より重要になる。

選ばれる自治体となるためには、まちづくりの中で教育委員会が主体的な役割を担っていかなければならない。

ー「日本教育」令和4年11月号掲載