教育長ブログ

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文科省「問題行動調査」―自治体ごとに違う「不登校」の基準:「長期欠席」に一本化し支援を行き渡らせて

日本教育新聞に寄稿した記事を、許可を頂いて転載します。

先月、文科省から「令和3年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」の結果が発表された。各メディアも一斉に不登校が過去最高の24万人だと報道した。

しかし、この不登校の数字には、あまり信憑性がない。なぜなら、不登校の基準は自治体によって違うからである。特に今回の調査はその傾向が顕著であった。

調査では「年度間に30日以上登校しなかった児童生徒」が「長期欠席」とされる。この長期欠席者はある程度客観的に把握できるので、自治体間の基準の差はそれほどない。ちなみに今回の調査では、長期欠席者は過去最高の41万人であった。

問題は、「長期欠席」の中の分類である。長期欠席は、「病気」「経済的理由」「不登校」「新型コロナウイルスの感染回避」「その他」に分類される。そして、長期欠席者をこれらのどれに分類するかの基準が、自治体ごとに大きく違うのだ。

今回の調査で、長期欠席者のうち「不登校」に分類された割合は、都道府県・政令指定都市によって、86%から19%まで極端な差があった。つまり、千人の長期欠席者がいても、不登校と報告されるのは、860人から190人までバラつきがあるということだ。都道府県・政令市という大きな単位でここまで差があるのだから、市町村や学校レベルまで見れば、もっと違うはずである。これを足し合わせた24万人という数字は、とても信頼できるものではない。

もっと言えば、不登校の基準は、完全にバラバラなのではない。「長期欠席が多い自治体ほど、不登校に分類する率が少ない」という傾向が明確に見られる。その結果、政令市では、千人当たりで「長期欠席が最多の市が、不登校が最少である」という逆転現象さえ生じている。

これは決して、長期欠席が多い自治体が「ズルをしている」と言いたいわけではない。不登校の基準の差は、最近になって長期欠席が急増した小学校の調査で、特に顕著である。急増する長期欠席者を「不登校」に分類するか、他の原因に分類するか、現場でも試行錯誤や迷いがあるのが実態だろう。どの自治体の方法が正しいという、正解があるわけでもない。そのため、意図的か否かにかかわらず、自治体間の差が生じてしまうのだ。

しかし、冒頭で述べたように、報道や世論ではどうしても「不登校」にばかり注目が集まってしまう。その結果、自治体や学校の支援策(予算や人員なども含め)が「長期欠席」ではなく「不登校」に着目して議論され、それ以外に分類された子どもたちにまで十分な支援が行き渡らないという弊害が生じかねない。

「長期欠席」の子どもたちが、孤立せず社会的自立に向かえるような支援をする必要性は、集計上の分類が「不登校」でもそれ以外であっても、変わるものではない。文科省は、誤差の大き過ぎる集計を改善するためにも、全ての子どもに支援を行き渡らせるためにも、「不登校」の集計をやめ「長期欠席」に一本化することを提言したい。

日本教育新聞 2022年11月21日付「提言」掲載)