教育長ブログ

熊本市教育長(H29.4~) facebookの投稿から主なものを転載しています。 https://www.facebook.com/hiromichi.endo

教育長だより ー 「よいこと」の副作用としての教員不足

※月刊「日本教育」に寄稿した記事を、許可を得てブログに転載させて頂きます。

 教員不足が大きな注目を集めている。文部科学省も、全国の実態調査を行ったのに続いて、末松大臣と教育長とのオンライン会議を開催したり、各教育委員会の取組を促す事務連絡を発出したりと、対応に乗り出している。

 現在起きている教員不足には、正規教員の不足と、非正規(臨時)教員の不足という、2つの問題がある。両者はもちろん関連しているが、それぞれ別の問題であり、原因も必要な対応も、それぞれ別である。

 前者は主に中長期的な課題であり、働き方改革、給与制度・免許制度の見直し、採用試験の改善など、対策も時間を要するものとなる。

 一方で、喫緊の問題になっているのは、後者の問題である。新学期の担任や教科担当者がいないといった、今まさに人が足りないという話だ。正規教員を補完する非正規教員が見つからないのである。

 この問題は、正規教員の割合を増やし、非正規教員に頼る割合を減らしていくというのが、王道の解決策だろう。しかしそれは、短期的には副作用も生む方法である。正規教員の採用数を増やすほど、非正規教員の不足は激しくなるからだ。採用試験の不合格者が非正規教員に応募するというのが主なルートになっているが、大量採用時代の今、不合格者の数が以前より減っている。非正規教員に応募する母集団が縮小しているのだ。正規教員の採用をさらに増やせば、さらにその傾向は強まる。

 また、非正規教員の応募者が減ったもう一つの原因は、学校改革の推進である。小学校英語GIGAスクールなど、最近の急激な学校の変化は、この期間に学校から離れていた人にとって、復帰をためらわせる大きな原因となっている。特に影響が大きいのはICTだろう。タブレットを使った授業などできない、学校に戻っても浦島太郎状態だ、と思うのも無理はない。たとえ良い変化であっても、学校が変われば変わるほど、復帰へのハードルは高くなってしまう。

 当然のことだが、教員確保のためにICTを使わない授業に戻すというのは、子どものことを考えればあり得ない。そうであれば、しばらく学校から離れていた人に対して、最近の学校の変化に追いつき、自信を持って学校に復帰してもらうための研修などが必要になる。こうした面でも国の支援を期待したい。

 正規教員の採用増も、ICTによる授業改善も、どちらも本来は「よいこと」である。しかし、その「よいこと」の副作用として、非正規教員の不足が生じてしまう。他にも、教員不足を招いている「よいこと」の例として、少人数学級の推進や特別支援教育の充実なども挙げられる。学校改革を推進する以上、こうした不都合な真実からも、目を背けるわけにはいかない。

 したがって、教員不足への対策には、「よいこと」を推進しつつ、副作用を軽くしていくという、地道な努力が必要となる。一筋縄ではいかない問題である。短期的な対策と中長期的な対策のバランスを取りながら、徐々に改善していくしかない。

ー「日本教育」令和4年7月号掲載