教育長ブログ

熊本市教育長(H29.4~) facebookの投稿から主なものを転載しています。 https://www.facebook.com/hiromichi.endo

こども基本法―学校も理念の実現を

日本教育新聞に寄稿した記事を、許可を頂いて転載します。

 去る6月15日、こども基本法が成立した。児童の権利条約の批准から28年を経て、ようやく対応する国内法が整備されたことの意義は大きい。

 この法律の基本理念には、児童の権利条約の四つの一般原則(差別の禁止、子どもの最善の利益、生命・生存及び発達に対する権利、子どもの意見の尊重)が盛り込まれた。

 また、国や地方公共団体が子どもに関する施策を策定・実施・評価する際には、対象となる子どもなどの「意見を反映させるために必要な措置を講ずる」ことも定められた。

 これらの詳細は、これから国が作る「こども大綱」や、それを勘案して地方公共団体が作る「こども計画」で決まっていくので、まずは国のこども大綱がどのようなものになるのか注視したい。

 ここで留意すべきなのは、公立学校も「地方公共団体」の一部だということだ。すなわち、今後は公立学校でも、法律の基本理念に沿って、子どもの最善の利益の考慮や、子どもの意見の反映などが求められる。法律の基本理念を、学校生活のどのような場面で、どのような方法で保障するのか、これから具体的な議論を進めていく必要がある。

 さらに、こども基本法や児童の権利条約の趣旨や内容について、広報活動等を通じて国民に周知を図り、理解を得ることも、国の努力義務となった。学校においては、教職員はもちろん、保護者や地域住民に対して、法律や条約の内容を周知していくことが求められるだろう。

 なお、この法律の限界といえるのは、国と地方公共団体だけが直接の対象になっていることである。そのため、国や地方公共団体ではない主体、例えば私立学校や民間団体などは、この法律によって子どもの権利の尊重が義務付けられたわけではない。

 しかし、「こども基本法」という名前を付けた以上は、その対象は国と地方公共団体だけでなく、全ての国民とするのが理想のはずだ。施行後5年を目途として必要な見直しを行うことになっているので、この点は今後に期待したい。

 こども基本法と同日に、こども家庭庁設置法も成立した。こども家庭庁は、これまでの内閣府厚労省の関係部局を一元化する他、前述のこども大綱の立案や、子ども政策の司令塔として各省の総合調整も行う。幼稚園教育要領も、今後はこども家庭庁と文科省が協議して定めることになる。

 これまで教育関係者の間では、文科省だけが「正統な」所管官庁であり、その他の省庁はあたかも「部外者」であるかのような言説がまかり通っていた。

 しかし今後は、そうした偏狭な縦割り意識は捨て、国や社会全体で子どもを育てていくのであり、学校も教育委員会文科省も、他の主体と協力しながら、その一部を担っているのだという認識に変えていく必要がある。

日本教育新聞 2022年7月11日付「提言」掲載)