教育長ブログ

熊本市教育長(H29.4~) facebookの投稿から主なものを転載しています。 https://www.facebook.com/hiromichi.endo

教育長だより ー AIが絵を描く時代に必要なのは、熊本の「○○もん」

※月刊「日本教育」に寄稿した記事を、許可を得てブログに転載させて頂きます。

 最近、完成度の高い絵を描くAIのサービスが話題になった。情景を表現する言葉を入力していくと、そのイメージに合った絵を1分ほどでAIが作成してくれる。ネットを検索すれば、本当にAIが描いたのかと目を疑うほどの、リアルな絵、神秘的な絵、有名画家風の絵など、様々な絵がずらりと表示される。これらを手で描けと言われても、一般人にはとても無理である。

 これは面白そうだと思って私も試してみたが、残念ながら、自分でも描けそうな単純な絵しか出て来なかった(笑)。AIを使っても、上手な絵を描くのにはコツがいるようだ。

 絵だけではなく、AIによる自動翻訳も、飛躍的に精度が上がってきた。日常的なネット閲覧なら十分に実用に耐えるレベルになっており、以前のようなぎこちない訳ではなく(例えば、主語を省略したような)自然な日本語に訳してくれる。ページを丸ごと数秒で訳すこともできるし、画像から文字認識をして訳すこともできる。さらに、英語のみならず、世界中の主要言語にも対応している。

 自動翻訳のおかげで、フランスの教師不足が例年以上に厳しいとか、ベルリンの小学生の82.7%が終日制の学校で学んでいるとか、ジャカルタの水道企業が学校中退者への奨学金を作ったといった、世界中の教育ニュースが日本語で簡単に読めるようになり、大変重宝している。

 これは逆に考えれば、私達が日本語で普段から発信している情報も、世界中の人に読んでもらえる可能性があるということだ。個人のSNS投稿も、学校だよりも、教育委員会のホームページも、もしかするとこの原稿も、海外の同業者が読んでいるかもしれない。人類がついに言葉の壁を超える「言語革命」が、すぐそこに迫っていることを実感する。

 ここでは美術と言語の例を挙げたが、多くの教科で習う知識や技能について、今後は日常生活や仕事上でAIに頼ることが多くなるだろう。だからといって、教科の内容を「覚える」ことが全く不要になるとは思わない。しかし、新しい技術を「使いこなす」ことが、生活に不可欠な技能になっていくはずだ。

 新しいモノやサービスは次々に生まれてくる。しかも、そのスピードはどんどん速くなっている。そんな時代に、新しい技術を「使いこなす」ために必要な技能とはどんなものだろうか。

 それは、新しいものを拒絶しないこと、そして興味を持つこと、できれば自分で試してみることだと思う。つまり、新しもの好き(熊本弁で「わさもん」という)の精神である。これこそが、新しい技術を使いこなす第一歩であり、これからの時代に必要な非認知能力(学力テストなどで数値化されない力)の一つといっていいだろう。

 そして、新しいものに興味を持っていれば、いずれ技術の方からこちらに歩み寄ってきてくれる。誰でも簡単に使えるようにハードルを下げていかないと、企業も収益を上げられないからだ。絵を描くAIも、私はまだ使いこなせているとはいえないが、まずは試してみたことに意義がある(と思いたい)。

ー「日本教育」令和4年10月号掲載