教育長ブログ

熊本市教育長(H29.4~) facebookの投稿から主なものを転載しています。 https://www.facebook.com/hiromichi.endo

教育長だより ー GIGAスクールの次は?

※月刊「日本教育」に寄稿した記事を、許可を得てブログに転載させて頂きます。

 GIGAスクール構想によって一人一台の端末が整備されてから間もないが、そろそろ「次」を考えなければいけない時期になってきた。数年後の端末の更新に向けて、どのような方針で臨むのか、本格的に検討を始めなければいけない。

 もちろん、最大の問題は予算である。少なくとも、無償を原則とする義務教育段階においては、一人一台の端末を保護者負担で買ってもらうという選択肢は現実的とは思えない。少子化という国難に直面する我が国にとって、教育費の保護者負担を増やすような政策は、到底支持を得られないだろう。幼児教育や高等教育など、義務教育以外でも無償化を拡大してきたこれまでの政策にも逆行してしまう。

 そうであれば、もし国が予算措置をしない場合でも、結局は自治体の負担でGIGAスクールの端末を更新していかざるを得ない。その結果が極端な自治体間格差であることは、火を見るよりも明らかだ。そうならないよう、文部科学省経済産業省、デジタル庁などの関係省庁におかれては、すべての自治体に対する確実な予算措置をお願いしたい。

 そうは言っても、予算を取るためには「根拠」すなわち「エビデンス」が必要である。巨額の投資を行ったGIGAスクール構想によって、子ども達にどのようなメリットがあったのかを、客観的に示すことが求められる。

 そうした観点から、これまで見てきた熊本市内・市外の先進校の事例を振り返ると、ICTの導入によって伸びた力は、学力調査の点数というよりも、主体性や表現力などの、いわゆる非認知能力が主であるように思える。熊本市の子ども達も、学力調査の成績は大きく変わっていないが、プレゼンテーションや動画作成などは、明らかに上手になっている。自分の考えや意見を表現することにかけては、今の大人よりも上ではないかとも思える。

 それに加えて、英語力も着実に伸びている。これは小学校の英語教育が必修化された影響が大きいため、GIGAスクールだけの効果とはいえない。しかし、どの英語の授業でも何らかのICT機器を使っているのを見れば、英語教育はICTと親和性が高いことがわかる。今後はオンラインで海外と交流することも普通になるだろう。

 このように見ると、GIGAスクール構想は、主体性、表現力、そして英語など、これまで日本人が「苦手」だとされてきたことを克服するための切り札ではないかと思える。まさに、学習指導要領が目指してきた力をつけるために、不可欠の道具だといえる。

 従来の学力調査には反映されないこうした力が伸びていることを、いかに客観的に示せるかが、GIGAスクールの次の段階に進むための大きな課題であると捉えている。そのためには、いわゆる非認知能力を継続的に測るような取組も必要かも知れない。熊本市でも、説得力ある示し方を研究していきたい。

ー「日本教育」令和4年9月号掲載