教育長ブログ

熊本市教育長(H29.4~) facebookの投稿から主なものを転載しています。 https://www.facebook.com/hiromichi.endo

教育長だより ー 遊びと学習

※月刊「日本教育」に寄稿した記事を、許可を得てブログに転載させて頂きます。

先般、ご縁があって「あそび庁」のアンバサダーに就任させて頂いた。あそび庁といっても、国の役所ではなく、民間団体(一般社団法人)である。最初に見た時には、そんな名前アリなのか?と思ったが、登記が認められているということは、アリのようだ。

あそび庁の「長官」は、元体操のお兄さんである小林よしひさ氏(よしお兄さん)、「副長官」はショートトラックスピードスケートの元日本代表である勅使河原郁恵氏である。アンバサダーには、子供たち、学校の先生、企業の方々、研究者、アスリート、教育行政関係者、そして肩書だけでは仕事の想像がつかない面白そうな方々が就任されている。

この仕事(といっても、もちろん無給であるが)をお引き受けした理由は、あそび庁が、Well-beingの実現という熊本市と共通する理念を掲げていることに加え、小学校以上での「遊び」の位置付けについて、以前から私が問題意識を持っていたことにある。

就学前教育(幼稚園、保育所認定こども園)では、「遊び」(幼稚園教育要領)や「生活や遊び」(保育所保育指針)を通じて、総合的に学ぶことが原則となっている。しかし小学校になると、「遊び」は、各教科や領域の中に位置付けられている。つまり、遊びの中に様々な学習内容が含まれるという形から、それぞれの教科・領域という枠の中に「遊び」があるという形へと、小学校入学を境に原則が180度変わってしまうのである。この就学前教育と小学校とのギャップが「小1プロブレム」と呼ばれて問題視されてきたことは、周知の通りである。

熊本市教育委員会では、令和4年6月に「熊本市立幼稚園まなび創造プログラム」を策定し、幼小連携カリキュラムの充実や、幼稚園と小中学校の施設一体整備といった方針を打ち出した。幼小接続期のカリキュラム連携は全国的に行われているが、長くても入学前後の数か月から半年程度である。これを、幼稚園全体と小学校全体を見通した、本格的な連携に高めようとするものである。

また、熊本市にあるWING SCHOOLというオルタナティブスクールは、さらに抜本的な実践を行っている。小学校低学年では体験活動が一日の大半を占め、そこから徐々に教科の授業が増えていくようなカリキュラムになっているのだ。スタッフの方が「小1プロブレム」ではなく「小1ノープロブレム」だと言っていたのが印象的だった。

私は、こうした「遊び」を中心とするカリキュラム編成が、一条校でも可能になるような制度があったらよいと考えている。これまで、小中一貫校(義務教育学校)や中高一貫校中等教育学校)が制度化され、柔軟なカリキュラム編成が認められてきた経緯がある。今後はこれらに加えて、就学前教育と小学校の一貫校を制度化し、小学校のカリキュラムを柔軟に編成できるような仕組みを作ってもよいのではないか。

もちろん、就学前教育を小学校化するような制度では本末転倒なので、小学校低学年に就学前教育のスタイルを取り入れる制度であることが前提である。

ー「日本教育」令和5年1月号掲載