教育長ブログ

熊本市教育長(H29.4~) facebookの投稿から主なものを転載しています。 https://www.facebook.com/hiromichi.endo

身代わりロボットで授業を受ける時代: 助かる子が一人でもいるなら、やる価値はある

日本教育新聞に寄稿した記事を、許可を頂いて転載します。

自分の代わりにロボットが学校に行く…というとSFの世界のように思われるかもしれないが、それが現実になろうとしている。

熊本市では、不登校の子どもがロボットで授業を受けるという実証研究の予算が、議会で審議中である。遠隔操作・ビデオ通話機能を搭載した自立走行型ロボットを教室に置き、自宅等から授業に参加できるというシステムだ。文科省の「最先端技術及び教育データ利活用に関する実証事業」の採択を受けた取り組みである。

熊本市ではこれまでも、各教室の授業のライブ配信や、フレンドリーオンラインという双方向ウェブ授業など、ICTを活用した不登校児童・生徒への支援を行ってきた。昨年度は、企業向けのリモートワークのシステムを使って、アバターを使って授業に参加し、先生や友達とコミュニケーションできる、バーチャル教室(メタバース)の実証研究も行った。バーチャル教室の実証では、不登校の児童・生徒にとって「他の人の存在を感じることができた」「いろいろな人とコミュニケーションが取れてうれしかった」といった一定の効果が確認できた。

こうした経験を生かして、さらに次に進むのが、今回のロボットを使ったチャレンジである。この事業では、これまでの支援策のように不登校の児童・生徒だけを対象とする環境ではなく、普段の授業や休み時間といった日常の学校生活に、ロボットを使ってどのように参加できるのか、検証を行う。

同じ技術を応用すれば、病気で入院している子どもなど、さまざまな理由で学校に行けない子どもたちにも役立つと考えている。

また将来的に、ロボットとメタバースの融合によって、実際にその場にいるのと変わらないような現実感のあるバーチャル空間が実現すれば、物理的な空間としての教室があり、そこに集合して授業を受ける、という学校の姿自体も変わるかもしれない。

そうなれば、学級や教科に応じた教室をフルセットで用意するという学校の建築も、見直しが可能になる。ハードからソフトへ、教育費の使い道も大きく変わるに違いない。

さらに、そうした技術は、過疎地や離島などの小規模校にとって、ハンディを克服するための大きな力になるはずである。地理的な制約を受けずに、他の学校の子どもたちと一緒に授業を受けることができるのだ。

20世紀生まれの私たちにとって、子どもの頃に描いた「21世紀」は、人間とロボットが共存し、時間や空間を超えて活動するという、夢の世界だったのではないか。そのような世界を、一気には無理でも、一歩ずつつくっていくという仕事に、私たちは取り組んでいる。

そんな現実離れしたことを、と思う人もいるだろう。しかし、それで助かる子どもが一人でもいるならば、試す価値はあると信じている。「子どもの頃に思っていた21世紀にならなかったね」なんて、諦めるのはまだ早い。21世紀はあと77年もあるのだから。

日本教育新聞 2023年9月25日付「提言」掲載)