教育長ブログ

熊本市教育長(H29.4~) facebookの投稿から主なものを転載しています。 https://www.facebook.com/hiromichi.endo

置き去りにされている給食無償化:早急に国による制度設計を

日本教育新聞「提言」欄に寄稿させていただきましたので、許可を得て転載します。

8月29日、文科省から令和8年度予算の概算要求が発表された。その中では、給食無償化について、金額を示さない「事項要求」とされている。すなわち、取りあえず要求はするが、詳しい中身はこれから決めるということである。

これは、ある意味で既定路線といえる。6月に閣議決定された「骨太方針2025」でも、給食無償化については、「令和8年度予算の編成過程において成案を得て、実現する」とされている。「予算の編成過程において」というのは、8月の概算要求から12月の予算案の決定までの間に、という意味にも読める。従って、「まだ決まっていない」ということ自体は、想定された事態である。

しかし、その「成案」が遅くなればなるほど、全国の自治体の教育予算に悪影響が及んでしまうことを、強く指摘しておきたい。無償化の帰趨が不明確なままでは、各自治体で「給食無償化に幾らかかるか分からないから」という理由で、教育分野の新規・拡充事業ができなかったり、既存事業が削られたりする事例が続出しかねないのだ。

給食無償化には巨額の財源が必要になる。私が勤務する熊本市の例では、小・中学校の給食を無償化する場合、35億円の財源が必要になると試算している。教育委員会予算の中でも、教職員人件費、学校施設費に次ぐ大きな金額である。

そのため、既に独自に給食無償化に取り組んでいる自治体にとっても、これから取り組む自治体にとっても、国の無償化制度がどうなるかは、教育予算のみならず、財政全体を左右する大問題である。令和8年度のいつから、どのような方法で、国が幾ら負担して給食無償化を行うのか、という制度設計を早急に示さなければ、各自治体の予算編成に支障を来してしまうのだ。

そもそも、国による給食無償化は、2月の自由民主党公明党日本維新の会の合意で「まずは小学校を念頭に、地方の実情等を踏まえ、令和8年度に実現する」「その上で、中学校への拡大についても、できる限り速やかに実現する」とされ、政治主導で始まった。しかし、その後の参議院選挙と政治的混乱の中、給食無償化についての議論は置き去りにされているように見える。

文科省の概算要求資料でも、ほとんど目立たない形でしか載っていない。よほど注意深く読まなければ、給食無償化に触れていることさえ分からないだろう(給食無償化は「高校無償化等」の「等」に含まれている)。文科省としても、政治主導で決まった事案だけに、方針を勝手に決めるわけにはいかず、対応に苦慮しているに違いない。

不安定な政治状況は当面続くのかもしれない。しかし、だからといって、全国の自治体で教育予算が削減され、子どもたちに悪影響が及ぶような事態は、絶対に避けなければならない。各自治体で来年度の予算編成が本格化する前に、政治の責任で早急に給食無償化に関する意思決定をしていただきたい。
日本教育新聞2025年9月22日号「提言」掲載)