教育長ブログ

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青木栄一著『文部科学省-揺らぐ日本の教育と学術』(中公新書)を読みました。

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以前こちらにも書いた『文部科学省の解剖』の青木栄一さんによる新書です。所々「ん?」と思う箇所もあるものの、概ね納得の内容だと思いました。

本書で印象的なのは、現在の教育政策が官邸や他省庁の「間接統治」であるという主張です。ご存知のとおり間接統治は、戦後にGHQが日本政府を通じて日本を統治したような手法をいいます。つまり、官邸や他省庁が、文科省を通じて、教育委員会や国立大学を統治しており、文科省はその意向に従わざるを得ない状況だという意味になります。

著者は、こうした手法が成立するのは、文科省の「外に弱く内に強い」体質のためだとしつつ、同時にもう一つ、大変重要なことを言っています。文科省の「業界関係者だけの狭い付き合い」では「時代の変化に立ち向かえない」ため「教育政策の主導権が徐々に文科省の手から離れていっている」(p.207)。つまり、外部とのパワーバランスという面だけでなく、政策の質という面でも、文科省が実質的な統治能力を失いつつあるということです。

文科省にとっては非常に厳しい指摘ですが、本書が間接統治の典型例として挙げる「GIGAスクール構想」を見てもわかるように、間接統治による政策に一定の支持があるからこそ間接統治が成立している、というのは否定できない事実だと思います。

ちなみに、「ん?」と思ったところを一つ挙げれば、「滋賀県は真ん中に琵琶湖があるせいか長年教育事務所は置かれていない」(p.199)という部分です。知り合いの滋賀県教委の元課長に、琵琶湖のせいで教育事務所がないのか聞いてみたところ、やはり「ちゃうやろ」ということでした。