教育長ブログ

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原武史著『増補新版 レッドアローとスターハウス』(新潮選書)を読みました。

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レッドアローは西武線を走る特急の名前です。私も子供の頃には、親に連れられて池袋の西武で買い物をし、パルコの上でご飯を食べて、レッドアローで帰るというのが年に何度かの贅沢という、典型的な西武の民でした。卒業アルバムにも西武ライオンズのウィンドブレーカーを着て写っているくらいです。

その西武沿線には、有名なひばりが丘団地をはじめとする公団住宅が林立しています。中でも、各団地のシンボルとなるオシャレな星形の棟がスターハウスです(近所の団地にはありませんでしたが)。かつて超高倍率で憧れの的だった洋風の団地生活ですが、「団地+鉄道」という生活スタイルは、アメリカではなくソ連と共通したものであり、西武沿線の団地群は日本共産党の強力な地盤となっていきます。本書は、そうした西武沿線の政治史を描いた、ちょっとマニアックな一冊です。

「秋津、清瀬」と聞けば「東久留米」と条件反射で出てきてしまう西武沿線の人にとっては興味深いエピソードが満載の書ですが、西武沿線でない人にとってどこまで響くのかは正直わかりません。ただ本書に出てくる、西武沿線と他の沿線の比較も面白いです。「東急沿線に住んでいるのは、・・・東急沿線に住みたかった人々が多く」「西武沿線の団地に住んでいるのは、西武沿線に住みたかった人々では必ずしもなかった」(p.357)というのは、自らが西武沿線の団地出身の著者にしか言えない言葉でしょう。

この「増補新版」は、単行本、文庫版に次ぐ三度目の出版です。あとがきでは、著者が西武の新型特急「Laview」に乗って感慨に耽っています。レッドアローの時代が終わろうとしているのは、確かにちょっと寂しいものです。