教育長ブログ

文科省→起業→熊本市教育長。45歳。悪性リンパ腫サバイバー。

川崎の連続殺傷事件はどうしたら本当に防げるのか?

28日に川崎市で起きた連続殺傷事件で犠牲になられた皆様とご遺族の皆様に、心より哀悼の意を表します。また、怪我をされた皆様の一日も早いご回復をお祈り致します。多数の学校を有する教育委員会の責任者として、今回の事件は本当にショックであり、悲しさと苦しさが入り混じった感情を覚えています。

今回の事件は、教員が付き添い、保護者が付き添い、スクールバスで通学するという、これまでの「登下校の安全確保」の考え方からすれば、これ以上ないほど整った体制で通学する最中に起きています。それだけに、どうやったら防げるのか、考えれば考えるほど、迷いが深まります。

今回の事件を防ごうとする場合、どの時点で防ぐのかという観点から、3つの段階が考えられます。

 第1段階 犯意を抱くまでの段階

 第2段階 犯意を抱いてから犯行を始めるまでの段階

 第3段階 犯行を始めてから被害者が出るまでの段階

 

第1段階 犯意を抱くまでの段階

今回の事件では、犯人の孤立感や絶望感といった背景が指摘されています。この第1段階で犯罪を防ぐということは、人を巻き込んで自殺しようとするほど自暴自棄になる人をなくすということです。世の中に不満を持つ人を完全になくすのは可能でも適切でもないと思いますが、本当に人を殺してしまうほどの憤りを持つ人をなくすことは目指してもよいでしょう。

そのためには、福祉の充実や社会的孤立を防ぐ方策、さらにいえば、誰もが充実した人生を送れる社会にする、といったことが必要であり、基本的に政治の仕事になります。これは根本的な対策に違いありませんが、やや中長期的な話になります。少なくとも、通学路の安全点検といったレベルの話でないことは明らかです。

 

第2段階 犯意を抱いてから犯行を始めるまでの段階

この段階で犯罪を防ぐためには、「犯罪予備軍」の特定と犯行の阻止という、高度な情報の収集・分析が必要であり、イメージとしてはテロ対策に近いものでしょう。

危険思想を抱いた段階で察知するというのがSF的な対策ですが、これは人権侵害の恐れが強いため現実的ではありません。したがって、犯罪につながるような危険な行動を現にしている人(不審者)を特定して、犯行を阻止することになります。今回の事件を受けて、不審者の情報共有の強化という話も出ていますが、情報共有だけでは犯行を阻止できませんので、なんらかの強制力が必要になるでしょう。それは、基本的に警察の領域になります。

また、目に見える防御策を講じて犯行をあきらめさせる、というのもこの段階の対策です。これまでの「登下校の安全対策」は、多くがこの範疇に入ります。集団での登下校、大人の見守り、スクールバス、といった対策は、不審者が近づきにくくして犯行を予防する対策ですが、今回はそれらを超える犯罪であった、ということです。

 

第3段階 犯行を始めてから被害者が出るまでの段階

今回の事件でいえば、刃物を持って向かってきた段階で防ぐ、あるいは逃げる、という対策です。当然ながら、刃物を持って向かってくる人を制圧するには、相応の装備と訓練が必要であり、一般人(教員、保護者、地域の人)には無理です。子供にはもっと無理です。今回の事件では、無言で背後から刺され、十数秒で19人が刺されたということですから、逃げるという対応も難しかったでしょう。

この段階で今回の事件を防げる方法は、私には、四方を警官が警護する、あるいは、人間の反応速度を超えるロボットが警備する、といったことしか思いつきません。いずれも、現段階で全国の小中学生にそれを実施するのは無理な話です。

 

このように考えてみると、本当にどうすれば今回の事件が防げるのか、暗たんたる気持ちになります。今回のような、路上での連続殺傷事件というのは、「安全点検」「見守り」「連携」といった、従来の「登下校の安全対策」で防げる事件でないことは間違いありません。

第1段階の根本的な対策の必要性はもちろんですが、国や教育委員会ができる当面の対策としては、素人頼みの「見守り」ではなく、一定の訓練を受けた人(警察官や警備員)による「警備」が精一杯だと思います。それは、犯行をあきらめさせる(第2段階)、あるいは、犯行が始まってから被害を防ぐ(第3段階)ために、万全ではないにせよ、ある程度は有効であるように思います。それには予算が必要ですので、今回の事件を受けて、国がどのような対策と予算措置を打ち出すのか、注目したいと思います。