政策作ってる人のブログ

政策をつくる仕事をしながら、考えたことを書いてみます。

都知事選の投票率をみて思うこと(投票率を上げるには)

東京都知事選、投票率は46.14%だった。極端に低くはないが、決して高くはない。私は、とにかく投票率が高ければいいとは思わない。投票を義務化して、選挙に興味も関心もない人が投票に行っても意味がない。

 

投票に行くことを強制されないで、なおかつ多くの人が投票に行くのが、自由主義と民主主義のバランスの取れた姿だろう。そういう状態は、どうやったらできるのか。

 

1.選挙に行かない理由

 

まず、選挙に行かないのはどういう人なのだろうか。総務省の調査では、棄権する理由で一番多いのは「用があったから」だ。なんと素直な答えだろう。国の調査でそんな答えをしたら罰則が待っている国もあるのだから、日本は平和な国だ。皮肉ではなく、個人の思想の自由が守られている、いい国だと思う。

 

多くの棄権者は、政治に絶望しているわけでも、一票の格差に異議申し立てしているわけでもない。そんなロックな理由で棄権する有権者は少ないのだ。そうではなく、自分の生活にとって、選挙よりも他の用事の方が重要だということだ。それは候補者の質が悪いとか、政治が腐敗しているとかいった話ではない。むしろ社会が安定している結果である。

 

2.投票行動モデル

 

これを理論化したのが、ライカーとオードシュックという政治学者のモデルだ。若干古いけど、面白い。それは、下の式で、Rがゼロを上回れば投票に行くというものである。投票に行く、行かないという判断は主観的なものなので、それぞれの利益やコストというのも、あくまでも主観的なものである。

 

R=P×B+D-C

 R:投票に行くことで得られる利益

 P:自分の票で結果が左右される可能性

 B:候補者による政策の差(自分が得られる利益の差)

 D:投票に行くべきという義務感、投票に行くこと自体の満足感

 C:投票に行くコスト

 

Pは、客観的に考えればゼロに近い。現実問題として、自分の一票で選挙結果が左右されることはほぼない。しかし、有権者が数百人という小さい村の選挙や、接戦と伝えられる選挙では、わずかな票差が意味を持つ。そのために、そういう選挙は投票率が高くなる。

 

Bは、例えば、ある業界をバックにした候補がいる場合を考えるとわかりやすい。その業界の人にとっては、当選者が誰になるかで業界の利益が大違いなので、Bが大きくなる。だから、その業界の人は必死で投票に行く。これが組織票となる。

 

Dには、民主主義に参加したという満足感や、それ以外の満足感(「投票に行ったよ~」とフェイスブックに書いて「いいね!」を押してもらえる満足感など)も含まれるだろう。逆に、投票に行ったかどうか一目瞭然である小さな村の選挙などは、「投票に行かないことによる不利益」も存在する。行かないと肩身が狭い。投票に行くことで、それを避けられるという利益がある。

 

Cは、投票に行くために犠牲にする仕事や用事が当てはまる。他の用事が大事であるほどCは大きくなる。今回のように天気が悪い場合や、投票日に病気になってしまった場合もCが大きくなる。

 

こうやって見ると、古典的なモデルではあるが、それなりに投票行動を左右する要素は入っているし、実感にも合っているような気がする。「用があったから」選挙に行かない人は、Cが、選挙で得られる利益(P×B+D)より大きい、ということだ。

 

3.投票率を上げるには

 

上のモデルに出てくる要素のうち、PやBは、候補者が誰か、選挙が接戦かどうか、という話なので、選挙ごとに変わってくる。だから、政治家の資質云々という議論は、投票率低下の本質ではないと思っている。政治家(特に与党候補)の質があまりにも悪ければ、むしろBが増えて投票率は上がることもある。実際、政権交代した時の選挙では投票率が上がった。

 

そういう激動の選挙ではなく、普通の選挙でも持続的に投票率を上げるには、Dをどうやって増やし、Cをどうやって減らすかを考えるべきだ。

 

Dを増やす方法としては、

①選挙に行くという義務感や規範意識を育てる(例:学校での選挙教育を充実する)

②選挙に行くこと自体で得をするようにする(例:投票すれば税金が還付される、投票所の受付を美人・イケメンにする、投票者の中から抽選で1億円が当たる)

といった方向性があるだろう(カッコ内はもちろん冗談も含む)。

 

Cを減らす方法としては、

①物理的に投票を便利にする(例:駅・コンビニなどを投票所にする、インターネットで投票できるようにする)

②投票への心理的バリアを低くする(例:「期日前投票+投票日」ではなく「この期間中はいつでも投票期間」とする、投票所の入場券がなくても投票できることを周知する)

といった方向性があるだろう。

 

いずれにしても、投票率を上げる方法を考える時には、どんな手段が、どんな経路で投票率向上につながるのかを明確にして、議論すべきだと思う。単に「投票に行こう!」と呼びかけるのは、Dをわずかに上げる効果しかないだろう。